パシフィック・リム

2013年、突然未知の巨大生命体が太平洋の深海から現われる。それは世界各国の都市を次々と破壊して回り、瞬く間に人類は破滅寸前へと追い込まれてしまう。人類は一致団結して科学や軍事のテクノロジーを結集し、生命体に対抗可能な人型巨大兵器イェーガーの開発に成功する。パイロットとして選ばれた精鋭たちはイェーガーに乗り込んで生命体に立ち向かっていくが、その底知れぬパワーに苦戦を強いられていく。

シネマトゥデイより

という訳で一部界隈で大人気・大盛り上がりのパシフィック・リム観てきました。

特撮の文法・アニメの文法

 いわゆる旧世代のオタクと現代のオタクを隔てる壁の一つに特撮の文法というものがあると思う。あのズングリムックリでCGを使用しない「重たいプロレス」とでも言うべき着ぐるみバトルの味である。この特撮の文法はCGという技術革新の導入によって、既に失われた文化になってしまった(無論、多くの部分を継承しているが、それは恐竜は鳥に進化したから絶滅していないという議論である)
 一方、アニメの文法というものは壁にはならず共通言語として機能している。アニメにはCGという技術革新がなかったため、昭和・平成を通じてその言語が保存されてきたのだ(上述と同様、色々な部分で当時のアニメと現代のアニメの文法は異なるけど、特撮ほど大きな変化はないという意味で)
 そこに庵野という特撮の文法を愛してやまない天才アニメ監督が現れた。彼は既に失われた言語となりつつあった特撮の文法を巧みにアニメに取り入れ、そして完成したのが、あの新世紀エヴァンゲリオンである。

 ギルレモ監督のガンダム詣で、日本のアニメ・マンガの大ファン、アニメータにしか描きえなかった巨大ロボットのヴィジョンを実写化と報道されているけど、私はギルレモ監督が撮りたかったヴィジョンはガンダムではなくジャイアントロボでもない、特撮だったのではないかと思っている。

それはアニメというにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた

 実はこの映画の戦闘シーンはそんなに好みじゃなかったりする(ぉ。エルボーロケットもチェーンソーソードもかっこよかったけど、全体的に重すぎて…。
 もっとこう、ピカってカイジュウの口元が光ったらドコドコドコーッと市街地に光球が炸裂して赤熱したイェーガーがいて、次の瞬間にはイェーガーの眼が光るとブースターパックが起動して光球を避けたり弾いたりしながら四つに組んで殴り合い、二人のパイロットが行けぇーッって叫びながら力技で操縦桿を倒して必殺技が炸裂して上空で眩い光がきらめくと地上に降りてくるのは一体みたいなのを期待してたんですよ。まあ劇場予告でタンカーで殴ってた段階でそうじゃないんだろうなーと薄々は気付いてはいましたが。
 この映画の戦闘シーンは正しく特撮の文法のそれです、昭和のウルトラマンゴジラに通じる、ジュワァっと叫んで空手チョップが炸裂するあの格闘です。チェルノブがハンマーアタックと叫んでせーので二人で組んだ両手の拳を振り落とすあの感じ、正しくカイジュウプロレスの世界です。そういう意味においてこの作品は評価されるべきだし、非常に楽しめるものだと思う、けどさすがに今の状況は多少持て囃されすぎじゃないかなーと、特撮の文法、本当に皆さんそんなにお好きですか?私はアニメの文法のほうが好きです。

異世界」を描くとはそういう過剰さを作家として「生きる」ことなのです

引用は伊藤計劃グラディエーター評より
M:I 2
 じゃあ特撮の文法で書かれたこの映画楽しめなかったの?というとまっっっったくそんなことないです、3Dで観て値段以上に満足しました。
 まず小汚い塗装の剥げたジプシーデンジャーのヘルメットにやられた、ああゆうウェザリングが入った小物に弱いんです、カーボンが付着したストームトルーパーの装甲だとかエイリアンのノモストロ号のディティールにも通じる一連のアレ、当たり前のことに思えるけどどれだけの映画がこれを表現できているか。
 続いて「壁」の描写とこれまたディストピア感があふれる小汚さ、「野郎ども、良いニュースと悪いニュースの2つがある、どちらから聞きたいか!?」の安定感のあるフリ、劇場予告でエリジウムを見ていたんで被りましたが萌えますよね。
 そして香港!香港といったら重金属酸性雨に包まれ常に夜であるべきなんですが、本作はそれを忠実に再現しております。ハンニバルと呼ばれるカイジュウの死体を売買する男も、その男がいる店舗も実にイイ!怪しく蛍光色に光るカイジュウの臓器が水槽に浮かび、漢方薬の箪笥が並ぶあの風景、私はこれをクーロンズゲートでしか見たことがない!
 イェーガーの基地も非常に良い、基本は打ちっぱなしコンクリートに錆びた金属。扉はバイオハザードに出てきそうな重厚な金属扉、各種危険箇所への警告は英語と漢字の並列表記でCAUTION/危険となっている、ネルフ本部のあれですよ!
 私的にはこのセットが実写で見れただけで、もう色々と満足だった。というわけでまだまだ盛り上がりを見せるパシフィック・リムお勧めです。